業務変革とシステム刷新を両輪でまわす
今回の業務変革において、竹村製作所が掲げたテーマは多岐にわたる。しかし、それらは決して個別の改善策ではなく、すべてが「全体最適」という一本の軸でつながっている。同社が取り組む主要なテーマと、その具体的なアプローチをいくつか紹介する。
①マスタデータのクレンジング

株式会社 竹村製作所
(左) 営業部 関東中部ブロック長
大島 伸介 氏
(右) 営業部 特販課 課長
竹下 聖 氏
変革の土台として重視したのが、「マスタデータのクレンジング」である。どれほど優れたシステムを導入しても、その中を流れるデータに不備があれば、精度の高い分析は望めない。
特に大きな課題となっていたのが、長年運用するなかで破綻しつつあった品目コードの体系だった。営業部の大島氏・竹下氏は「誰もがわかるコードに刷新できた意義は大きい」とその見直しの効果を語る。そのほか、実際の作業内容に合わせたBOM構成の精緻化や販売単価マスタの見直しなど、データを「分析可能な資産」へと磨き上げるこの地道な工程こそが、データドリブン経営を実現するための不可欠な儀式となった。
②生販の一体化と計画サイクルの刷新
この強固なデータ基盤の上で展開されるのが、「生販の一体化と計画サイクルの刷新」である。これまで支店の担当者が支店在庫の需給バランスをみて、月次で工場に生産依頼する運用だったが、本社でも在庫を持ち、月次・週次の生販間のコミュニケーションにより、在庫水準や生産計画、補充計画を最適化する方式に改めた。また需要特性に応じて、製品ごとに在庫配置や生産方式を見直すこととした。A品は需要計画にもとづくPSI方式、B・C品は発注点方式などだ。その他、OEMや特殊仕様などの受注生産品、顧客仕様の半見込生産品など、生産方式は多岐に渡るが、mcframe CSに蓄積されたPSIデータをもとに最適な方式を模索した。
製造部の清水氏と営業部の大島氏は、「営業と製造が互いの状況を言い合えるようになり、距離が近くなった。需要や在庫の動きを見て全体最適で回す重要性を現場が理解し、ものづくりから販売まで一貫した意識で動けるようになっている」とその変化を語る。
③PSI(生産・販売・在庫)の一元管理
当初はPSI・スケジューラなどの計画ツールの導入を検討したが、業務変革を連続的に進めていく必要性から、柔軟に組み換え可能なEXCELをベースにすることとした。ただし、データの二重管理は避けるために、mcXのAPIを活用し、蓄積されたPSIデータをEXCELに取得可能な仕組みとした。
④モバイル端末による製造現場での入力と実績把握の精緻化

株式会社 竹村製作所
(左) 製造部 次長
島田 恵自 氏
(右) 製造部 資材課 課長
北澤 基至 氏
従来は紙の記録書をもとに事務所で事後入力する運用だったが、モバイル端末の導入により現場入力する方式に改めた。これにより入力負荷の軽減のほか、在庫のタイムリーな把握や着完の入力による作業時間分析の高度化、精緻な不良の把握等を可能とした。
モバイル端末のアプリは、mcXのノーコード開発基盤を利用したアジャイル開発のアプローチとした。プロトタイプを作成し、実際に現場で評価しながら開発を進めることによって、スムーズな定着をねらいとした。製造部の島田氏と資材課の北澤氏は、「入力には不安がありましたが、早期に習得できました。特に若い人は慣れるのが早く、すぐに使いこなしていました」とその効果を語る。
モバイル端末とBluetoothリーダーで製造実績をリアルタイムに把握⑤受注設計生産部門のユーザー主導での業務変革

株式会社 竹村製作所
経営企画部 部長
井上 敏 氏
今回の変革において、最も劇的なリエンジニアリングを体現したのが水環境装置部門だ。同部門は、学校のプールや公共施設の循環型ろ過装置といった「受注設計生産」の事業を担う。
最大のポイントは、既存の業務ルールに固執せず、システムを軸とした理想の業務を実現するために業務プロセスを「ゼロリセット」で再構築したこと、そしてそれを徹底してユーザー主体で進めたことにある。従来はシステム外の業務が多く、事後入力を基本としていたが、mcXの導入を機に、受注から設計、調達、製造、納品、そして原価計算に至るまでをシステム上で完結させる一気通貫のプロセスへと刷新した。
経営企画の立場からファシリテーターを務めた井上敏氏は、「ユーザーが現状の業務をゼロリセットで見直すことに納得し、新業務を主体的に創り上げてくれたことが最大の成功要因」と語る。さらに、「システム上の最適なタイミングや担当者を一つひとつ確認することから始め、見積や予算の管理単位などデータ構造の面も並行して検討したため、非常に大きなパワーを要した」と、徹底した再設計の過程を振り返る。

株式会社 竹村製作所
(左) 水環境推進部 部長
小林 克規 氏
(右) 水環境推進部 水環境推進1課 課長
清水 拓 氏
この設計図に命を吹き込んだのは、現場の当事者意識だ。同部門を統括する小林氏は、あえて実務担当者にマニュアルの初版作成を託し、全員で議論を重ねる手法を採った。「担当者が作成したマニュアルを皆で揉み、対話を通じて育てていった。これにより全工程に一体感が生まれ、システムと同時に人の動きそのものが変わりつつある」とその手応えを語る。具体的な運用としては、機種ごとにベースとなるBOMを整備し、品目の採番ルールを厳格化。受注後にBOMをコピーして個別仕様を反映する運用を確立したことで、MRPによる自動手配を可能とした。さらに、設計・製造工数もmcXで把握することで、これまで困難だった「原価の見える化」も実現している。検討をリードした清水氏も新業務の姿に満足げだ。
最もシステム化が困難とされた同部門が、自らの手でルールを書き換えたという事実は、同社が過去の成功体験を脱ぎ捨て、真の全体最適へと進化し始めたことを象徴している。
⑥財務のための原価計算から、経営判断に資する「原価管理」へ

株式会社 竹村製作所
常務執行役員 管理本部 本部長
小出 篤 氏
システム刷新の総決算ともいえる原価管理において、管理部門を統括する小出氏は、自らの役割を「各部門から集まったデータを経営判断に資する指標へと磨き上げる最後の砦」と自認している。
稼働初期に頻発した数値の異常も、小出氏は「他部門との連携を深める好機」と捉えた。エラーの背景にある現場のオペレーションミスや業務ルールの不備をひとつひとつ紐解くことで、部門を越えたコミュニケーションが活性化。単なる集計業務を超え、「なぜこの原価なのか」を突き詰める真の原価管理のPDCAが回り始めたのである。
「稼働から4ヶ月、チームに確かな力がついてきた実感が、何よりの支えになっている」と語る小出氏。経理の枠を超え、経営の意思を正確な数値へと変換するその執念が、全体最適の基盤を静かに、しかし力強く支えている。